『ルイージに歴史あり 外伝』その8

8月6日

第3章 〔スーパーマリオランド編〕

(3)宇宙催眠の副作用(後編)

俺は、密航後、
早速、宇宙催眠を使いこなす為の練習をした。

マニュアルにも、使用方法は簡単とあったので、
1週間もあれば、一通りは使いこなすことができた。

ただ、宇宙催眠を使用する度に
肉体に多大な疲労が起きるが、

軟弱者と揶揄され
せっかく学んだロボット工学も
ほとんど活かせることができなかった
自分が、うまれてはじめて特殊な力を
得たことの喜びの方が勝っていたからなのだろう。

そのことが、心の底から
苦にはならなかった。

宇宙催眠を一通りマスターしたので、
早速、自分の故郷の軍隊のロボットの設計を担っている
博士の研究所に行こうと思ったのだが、

それを実行するには、
とても厄介な問題が、あることに気付いた。

今の俺は、いわれのない咎めが理由とはいえ
軍隊を脱走したのだ。

脱走した人間を、いちいち追いかける程、軍隊は
暇な組織などではないにせよ、
そんな奴が、ロボット工学の現場をみたければ、
研究所に潜入する以外はない。

だが、博士の研究所には、容易には近づけないのである。

まず、博士は、俺の故郷では、ロボット工学においては、
天才と称される程であり、その才能は、故郷全体で
一目置かれていて、彼の為に、ひとつの惑星を
彼の研究施設にあてている程であった。

また、アポなしで、支配者の一族にあうことも
できる程でもあり、この博士が開発した
戦闘ロボなしでは
軍は、幾多の戦闘を勝ち抜くことなど
できなかったと言っても過言ではなかった。


それだけの地位と名声を得ている
博士の研究施設がある惑星は、
まさに、軍事上の機密の
宝庫みたいなものでもある。

機密が容易に漏えいしない様に、
軍の警備も、とてつもなく厳重だった。

その警備をくぐりぬけるなど、
よほどの手練れの諜報員をもってしても、
無理である可能性が極めて高い。

それならば、研究施設のロボットの設計の現場を
みることなどはあきらめようかなと思いもしたが、
心情的にあきらめることはできなかった。

こんなことを口にするのは、気恥ずかしすぎるので、
人前では、口にしないが、
俺は、俺なりに、苦労して、俺の青春を費やして
ロボット工学の大学に進学し、ロボット工学を学んだからである。

学んだことを活かせないのなら、
せめて、ロボットの設計の現場でも
みてみたいのである。

俺は、約1か月、
端末の画面とにらめっこしながら、
博士の研究施設に潜入する方法を考えた。

考えが煮詰まりすぎて進展しなくなった時は、
気晴らしの為に、俺の住居の上空の雲の中に
巣を作っているチッキン(※1)にエサをやることにした。


(※1)スーパーマリオランドにて登場
マリオとスカイホップ号の前に敵として
立ちはだかる



チッキン、この星に棲んでいるトリで、
みためは、地球に棲んでいるカラスに似ているが、
カラスと違い、羽の色は、赤色に近いピンク色で
嘴は黄色である。 また、みためにおける
チッキンの最大の特徴は、
オレンジ色の妙なヘルメットみたいなものを
かぶっていることである。

画像


なぜ、トリがヘルメットをかぶっているのかは、
地元の学者でもわからないらしい。

また、このチッキンは、別名、戦闘のトリと呼ばれていて
自分達に敵対する相手には、誰であろうが
恐れもせずに戦いを挑むらしい。

尚、このトリには、特徴的な生態がある。
それは、雲の中に巣を作るという事である。

雲とは、
空気中の水分が凝結して水滴、結晶となり、
それらが群れ集まって空中に浮遊している
あの雲のことである。

あの雲の中に、どうやって巣を作れるのかも
まだまだ解明されていないらしい。

どうやら、俺の前に住んでいた人間が、
このトリにエサをやっていたらしいので、
俺がエサをまけば、チッキン達が、おのずと
エサを食べる為にやってきた。

みためにも、生態にも、面白くて珍しいトリなので、
当時の俺は、気晴らしもかねて、このチッキン達を
みていたが、

このチッキン達が、
後年の俺の地球での
生活において、いろんな面で
大きく関わってこようとは、当時の俺は
想像すらしていなかった。

まぁ、それはともかく
気晴らしもしながら、あれこれ考えた結果、
俺は、ある作戦をおもいついた。

その作戦の内容とは、簡単に言えば、
地球の諺にもある様に、
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という内容ある。

博士自身は、研究施設に入り浸っている様な状態だが、
彼や助手達の雑用で、色々な惑星間を使い走りしている
者達がいる。 その者達の誰か一人に宇宙催眠をかける
その者に助手のところに、案内をさせて、その助手に
宇宙催眠をかける。 その助手を案内役として
研究施設を自由自在に見学するという寸法である。

尚、その惑星間を使い走りしている者達に近づくには、
その者達の顔を知っている必要があるが、
その者達は、何度か軍の基地にも、来ていたことがあるので、
顔については、大体は知っている。

しかも、この惑星にも、よく来るらしいので、
俺が探し回る必要もない。
あとは俗に言う「果報は寝て待て」である。

1週間後、この惑星に、
その使い走りしている男がやってきた。

さっそく、俺は変装して、
その男を尾行した。

かつては、御曹司に一切気づかれることなく
スキャンダルを暴いたこともあるので
尾行はお手の物でもある。

男が、何らかの申請の為だろう
何らかの管理局の様な建物にはいった。

30分後、男はでてきた。
どこに向かうのかと思いきや、
何と、男は居酒屋にはいった。

(オイオイ、任務中に居酒屋かい)

俺は少し呆れつつも、
居酒屋の窓に貼られている
この店のシステムが書かれたビラをみた

どうやら、この居酒屋は、
居酒屋と銘打っているが、地球でいうところの
カラオケボックスみたいな店であるらしい。

店内は、防音のきいた部屋に、いくつかわかれており、
誰にもはばかることなく、大騒ぎができるみたいである。

(どうやら、滅多にないことだが、
運は俺にむいているらしい。 仕掛けるには、絶好の機会だ!)

俺は、適当な事をいって、店の主人に
男が入った部屋を聞きだした。

さっそく、男がいる部屋にはいった。

いきなり見ず知らずの男が、はいってきたことに
使い走りの男は、一瞬、呆気にとられた。

俺は、その一瞬の隙に、宇宙催眠をかけた。
宇宙催眠をかけられた男は、
まるで感情のないロボットの様な表情となった。

宇宙催眠の副作用として
俺の肉体に疲労が起きたので、俺は近くの椅子に
座り込んだ。

(これで、第一段階はクリアしたな)
俺は、肩で息をしながら男の顔をみた。

どうやら、さらに運が向いていたらしい。

俺の想像よりも疲労は、たいしたことはなかったので、
15分かそこらで何とか動けるほどには、回復した。
しかも、男は、酒しか注文していなかったらしく、
店員がはいってくることはなかった。

俺は、男の荷物を調べた。

どうやら、男は、この惑星の建物の管理局に
申請の為に、きていた。
その申請の内容は、
助手の一人の別荘の建築の申請だった。

(噂には聞いてはいたが、本当に雑用だな…
あれ!? この助手の名前…)

書類に書かれていた助手の名前をみた

女の名前だった。
俺の故郷の惑星では、この名前の女が多かったからだ。

しかも、この女の姓名は、
どこかで聞いたことのある名前だった。
だが、思い出せなかった。

(どこかで聞いたことのある名前だが、
まぁ、思い出せなくても、気にする必要もないか…
次の段階は、どうやって、
コイツに宇宙催眠をかけるかだな。)

俺は男に、専用の高速艇まで案内するように命じた。

使い走りは、旅行用の宇宙船などで
惑星間を移動などしない。
上役の雑用をすみやかにすませる為に、
専用の高速艇を使うのである。

主人の命令を忠実にこなすロボットがごとく、
男は俺を港にとめてある専用の高速艇に案内してくれた。

高速艇は、
地球にある乗用車と同程度の大きさである。

俺は、高速艇の後部、荷物などをいれる荷物室に
潜り込み、男に研究施設にむけて発進させる様に
命令した。

彼等が使う高速艇は速かった。


民間の旅行用の宇宙船なら数日はかかろうかという距離を
わずか1時間ほどで研究施設のある惑星に
たどり着いたのである。


たどり着くまでの1時間、
俺は何もしないわけがなかった。

研究施設は、軍隊にいた時もふくめて、
一度もみたことがなかったのである。

ならば、みてみたいと思うのが人情である

俺は、男に、高速艇に付属している端末で
研究施設の画像データ及び研究施設の見取り図を
俺の所持している端末へ
送信するように念波をおくった。
(尚、念のため、俺の端末に画像データを送信後、
高速艇の端末から送信記録を削除することも
命令しておいた)

早速、俺の端末に、
幾つかの研究施設の画像と見取り図が送られてきた。

(これは、何かの要塞か!?)
俺は、画像データをみて、思わず唸った。

噂では、戦闘ロボの設計だけでなく、
戦闘ロボのテストや支配地域の各工場の戦闘ロボの
生産ルートのひな型の制作も担っているらしいので
施設の規模は、かなり大きいのだと思っていたが、

実際の研究施設は、
俺が所属していた基地よりとは比べものに
ならないぐらい大きかった。

続いて、俺は見取り図をみた。
だが、研究施設の大きさに反比例でもするかごとく
見取りの図の枚数は俺の予想をはるかに下回る程、
少なかった。

理由は、簡単に想像できた。
研究施設は、機密事項の宝庫なのだ。
たかが使い走りの男が、施設内を隈なく行き来など
できるはずもないからなのだろう。

(もし、助手に宇宙催眠をかけるのなら、
この男が行き来できる範囲の場所でかけねばならならぬが、
警備のレベルにもよるが、まぁ、この見取り図で確認できる
場所は、警備はそれほどではなかろう)

俺は、荷物室から出て、
カメラが内蔵されたコンタクトレンズを渡した。

輸送・補給部隊では、
敵対する惑星への潜入任務も含まれていた。

潜入といっても、軍の密偵達が行う様な
本格的な潜入任務ではない。

敵対する惑星の気候、土地、住んでいる種族などを
ごく簡単な内容を調べ上げるか、もしくは、
密偵達の行動に、余計な監視がとどかない様に
囮をかねるという危険な潜入任務もある。

このコンタクトレンズは、
潜入に使う道具の一つなのだが、
それらの道具は軍から支給されるのではない
マニュアルを渡されて部隊員で作らねばならなかったが

男に、コンタクトレンズをつけさせ、俺は端末のキーボードを叩いた。

端末に、コンタクトレンズのカメラの映像が映し出された。
俺は、内蔵されたカメラの操作を一通り、確認すると、
荷物室の荷物に潜り込んだ。

画像


見取り図によると、
この使い走りの男が所属する部署は、
雑用部という。 


部署の名前からして、この部署のある情報は、
漏れても、何の損害のない
情報ばかりなのだろう。

案の定というべきか
雑用部の警備は、
ほとんど形骸化している様なものだった。
何のチェックもなしに、高速艇はすんなりと
研究施設がある惑星にたどり着き、研究施設内の
雑用部に入ることができた。



男に、高速艇から降りさせ、見取り図どおりに
動く様に命令した。

端末で確認したところ、雑務部の建物には、
監視カメラなどは一台もなかった。
上空を飛行する監視ロボもなかった。

俺は、男に自分の部署にもどって、
定時まで、自分の業務をおこない、業務終了後は、
すみやかに雑用部の社員寮の自分の部屋にて
待機しておく様に命令した。

男は自分の部署に、もどった。

この使い走りの男が所属する部署、
雑用部の第一課というらしいが
課の職場の様子は、民間の企業のオフィスと、
大した違いはなかった。

ただ、しばらく職場をのぞいてみると、
気になることがあった。

職場にいるのは、皆が壮年もしくは中年と
よべる様な男女しかいなかった。

また、その男女たちの顔は、誰もが暗くて、
何やら、ひどく不愉快そうな顔つきだった。

高速艇の荷物室から、かれこれ3時間ほど
職場の様子を観察してみた。

皆が、不機嫌な顔つきのまま、誰も一言も発することなく、
何やらの書類の整理や、資料の整理等をしている。

(なんか、不気味な職場だな…)

端末でカメラの操作をしていると、ふと本棚の上に、
何やら標語らしきものが貼られていた。

標語には、
『コミュニケーションの豊富さが
明るい職場を作り、仕事の活性化を推し進める』と
あった。

(どうやら、上からのお達しの標語なのだろうが
コイツ等、全然守ってないな…)
俺は、思わず苦笑いをしてしまった。

定時を知らせるアラームが職場に鳴った。

雑務部一課の職場にいる全員が、一斉に
帰る支度をした。 誰も、自分の同僚に
「お疲れさまです」などの挨拶を一言も
かわすことなかった。

彼等は、そのまま、社員寮に
もどるのだろう。

30分ほど経過してから
俺は、高速艇の荷物室からでた後、
見取り図を参考に、社員寮の
使い走りの男の部屋に移動した。

驚いたことに、
誰にも見咎められることはなかった。

男の部屋は、少なくとも、
輸送・補給部隊の寮よりかは
グレードが高かった。

何よりも、巨大スクリーン付きの高性能の無線と
音声操作型の端末があるのには、
少々、驚いた。

どちらも、滅多にお目に
かかれるものではなかったからだ。

ふと、高性能無線のランプが点滅した。
誰からの連絡がはいったということである。

俺は、とっさに、物陰にかくれ、
男に受信する様に命じた。

スクリーンに中年の男女の顔が映し出された。
先程、職場でも確認したが、
どうやら雑用部の第一課の同僚だった。

開口一番、前置きもなしに、
中年の男女達は、
博士や助手達への愚痴と文句を喋った。

約3時間半にも及ぶ、
とても長い愚痴と文句だった。


俺は、自分に落度でもない限り、
3時間半も、相手の愚痴と文句を聞いてやるほどの
度量はないので、適当に話を聞いて
とっとと、通信をきるのだが、

それは、相手の愚痴と文句の内容が
聞き捨てならなかったからだ。

心情的に、にわかに信じがたいが
どうにも、聞き捨てならなかったからだ。

男に、適当に相槌をうたせながら、
俺は、相手の愚痴と文句の内容から
気になる語句を拾い上げ、
端末に入力した。

相手が、自分の思いを、相手の配慮も
考えずに、ぶちまけている様なものなので、
気になる語句には、似た様な内容は
たくさんあったが、入力したデータを
別に保存しながら、取捨選択を行った。

3時間半にわたって、博士と助手達の
愚痴と文句をいいきった後、
2人の溜飲は下がりきったのだろう。

ケロッとした様子で、笑みすらうかべて
礼も言わずに、通信をきった。

礼の一つでも言えとでも言いたい気分だったが、
俺は、博士と助手に対する相手の愚痴と文句の内容を
まとめることに専念した。

30分ほどで、相手の愚痴と文句の内容をまとめた。

同僚の博士とその助手達への愚痴と文句の内容

簡単に言ってしまえば、
今の研究施設は、博士とリタイア組の老人達が
跳梁跋扈しているとのことだ。

ちなみに、リタイア組とは、
かつては、この研究施設の助手達であり、
通常なら定年後、解雇されるのだが、
その技術と知識をおしまれ、定年後、
再び任用された人々の事である。
俗に、地球でいうこところの再任用のことである。

また、リタイア組とは、雑用部が
嫌味を込めて、勝手に名付けた名称であり、
正式名称は、グレート・メカニックというらしい。

その跳梁跋扈の内容を言うと、
彼等の公務の一つに、次世代の者達に
きちんと、戦闘ロボの技術と知識を伝える事があるらしい。

だが、彼等が助手として任用し、
彼等の技術と知識を教える次世代の者達は
全然、その資格がない者であるらしい。

これが、中年の男女達が、最も業腹なことであり、
俺が最も、心情的に聞き捨てならぬことなのだが、
その者達は、別にロボット工学関連の大学の出身者ではなかった。
ロボット工学関連の大学はおろか、その他の関連の大学すら
卒業していなかった。

単に性格と人付き合い、見栄えがいいだけの
20代前半にもならない若者達だということらしい。

しかも、その若者達の9割がたは
何と、女である(しかも美人)らしいのだ。

また、残りの1割は、男なのだが、
彼等の言うことを従順的に聞く
性格と人付き合いがいいことが取り柄だけの
上流の階級の出身者だった。

また、同僚の中年の男女たちは、
10数年前では、戦闘ロボの設計のスタッフであり、
博士の助手だったが、中年の男は、博士とリタイア組との
ちょっとした確執が原因で、中年の女は、
要は若くなくなったので、雑用部に左遷されたらしい。

つまり、博士とリタイア組の老人たちは、
公務に託けて、実績のある者達を遠ざけて、
自分達の気に入った人間達だけで
戦闘ロボの設計のチームを作っているとの事である。

さて、俺の故郷では、子は、親の仕草をみて学ぶという 
それゆえに子に礼儀作法を学ばせる一番の近道は、
親が、常日頃から礼儀正しい行動をすればいいのである。

博士とリタイア組は、雑用部を完全にバカにして、
塵芥のごとくこき使っていた。
雑用部が仕事をすみやかにこなしても、
労いの言葉のひとつもかけないらしい。

親である彼等がその様子なので、子である助手達も
当然、雑用部を完全にバカにして、
塵芥のごとく、こき使っていた。

要は、博士とリタイア組の専横で
左遷され、ロボット工学の知識もない
若造共にバカにされて、
塵芥のごとくこき使われていることに、
中年の男女は、口惜しかったのである。
(さらに、中年の男女によると、彼等が公費の
無駄遣いもしているので、尚更であるらしい)


成程、その様子では、
この使い走りの男が、業務中に居酒屋によるのも
致し方ないのかもしれない。

だが、本当なのだろうか
軍の戦闘ロボの設計は、故郷の繁栄には
必要不可欠ともいえる公務である。

その公務にあずかる者が、本当に、
公益を大幅に、損失しかねない真似を
しているのだろうか。

できることなら、あの中年の男女たちが
言った事は、
針小棒大な戯言であってほしかった。

もし、本当なら、俺の
俺の今までの人生と俺が学んだ事は、
全否定されているも同じだからだ。

この間も、女の出世に、言い様に
利用されたのだ。
さらに、自分の否定につながる
現実など見据えたくなかった。

だが、人生とは
見据えたくない現実程、見据えさせられる機会が
多いものであるらしい。

30分ほど、ひとりで煩悶すると、
また、高性能無線のランプが点滅した。
とりあえず、俺は、男に受信する様に命じた。

巨大なスクリーンに、
見栄えのいい若い女が
映し出された。

(こいつは、と…!?)
その女をみて、俺は、思わず
声をあげそうになったが、
何とかこらえた。

その女が身につけている
ネームプレートから、この女こそが、
使い走りの男の書類に載っていた助手なのだが、
相手の顔をみて、なぜ、この女の名前が、
どこかで聞いたことのある名前だと思ったのか
理解できた。

大して付き合いのある仲ではなかったので、
ここ数年、会ってもいなかったが、

この女は、俺の隣の家に住んでいた者だった。
よくいえば、明るくお調子者だが、わるくいえば、軽薄で、
運よく玉の輿に乗るのを夢見ている様な女である。 
(俺は、この女のことを軽はずみ女と陰で呼んでいた)

詳しくは知らないが、
ロボット工学の大学などはでていないことは
確かだった。

(なぜ、コイツがこの研究施設の助手として、いるのだ!?)
俺は足がふらついてしまい、倒れそうになった。

開口一番、軽はずみ女は、横柄な物言いで
以前依頼した例のテストパイロットの件は、
どうなっているのかと訊ねた。

もっとも、俺には、例のテストパイロットと言われても、
何のことかわからなかったので、
俺は、倒れそうになるのをこらえつつ、
男に、ぼちぼち進んでいることを言わせた。

軽はずみ女は、わかったといった後、
とっとと、選出する旨を伝えた後、
横柄に通信をきった。

通信がおわったと同時に、俺は倒れ込んでしまった。
鏡はみていないが、さぞかし青ざめていることだろう。

あの軽はずみ女がでてきたことで、
俺は、あの中年の男女が言った事は、
針小棒大な虚言ではなく、真実だと悟った。

俺の、今まで人生は、完全否定されたのだ。
あの中年の男女の言葉は現実だった。
俺が、軍に入隊することを条件に大学に進学した事や
突撃部隊の嫌がらせにも耐え抜いてまで、
いつかつかめる夢というものは、所詮、永久につかめぬことものだと
思い知らされたのだ。

泣きそうになったが、何とかこらえた。
ただし、体の震えが止まらなかった。

とりあえずは、気持ちだけは、
何とか落ち着ける様にしないといけないと

いや、当時は、
そんな思いすらなかったのかもしれない。

とりあえず当時の俺は、
右手で自分の頭をつかんだ。
自分のこめかみ辺りに力をこめた。

まるで、本能的に、俺が俺自身に、
俺の体の震えがおさまれ、
気持ちよ、落ち着けと念じたかの様に

画像


1時間ほどして、
一旦、気持ちが、落ち着いた。

いや正確に言えば、
落胆の気持ちと体の震えがなくなるにつれて、
まるで、マグマのごとく、
怒りの衝動がわきあがってきた。

(…止めてやる)
俺は、心の中で、ゆっくりとつぶやいた。

(…研究施設をこっそりと見学だなんて止めてやる)
俺は、拳を強く握りしめて、自分の胸のあたりをみる。

(こうなりゃ、俺が支えにしたものを否定された代償を
支払わせやる! 代償は、この研究施設のトップの地位だ!
宇宙催眠なら、それができるはず! 悪用だろうが
何だろうが、関係ねぇ!)
俺は、ゆっくりと立ち上がり、あの軽はずみ女が
言っていたパイロットの件を思い出した。

(テストパイロット… 
おそらく、何かの試作機のパイロットなのだろうが
それでも、利用してみるか)

俺は、使い走りの男に、テストパイロットの件を
しゃべらせた。

予想通り、1週間後にロールアウトする
試作機のテストパイロットを選び出すことを
あの軽はずみ女に依頼されていたらしい。

だが、この後、男は、とても妙なことを言った。
テストパイロットは、
輸送・補給部隊から選出せよとのことらしい。

テストパイロットの仕事については、
俺も概要しか知らないが、
どんな試作機のテストパイロットだろうが、
普通、パイロット特性がある
突撃部隊から選出されるはずである。

また、話を聞いていくうちに気づいたが、
試作機のテストパイロット選出は、
軍の機密事項にあたることである。
こんな警備が形骸化している様な部署の人間などに
依頼する様なことではないはずである。

なぜなのだろうか。
考えてみたが、わからない
でもまぁ、これは利用しない手はないと
俺は確信した。

俺は、男にテストパイロットの選出の件の進捗を
たずねた。

数名の候補者をピックアップはしていた。
あとは、その候補者から選び出すだけである。

俺は、その候補者のデータを調べた。

どれも、輸送・補給部隊の隊員だったが、
俺個人との面識はない者だった。

ふと、ある一人の候補者のデータをみてみると、
その者の体格と俺の体格は、ほぼ同じだった。
また、顔つきは、俺と多少の違いはあるにせよ、
ある程度のごまかしができれば、
俺が、この候補者に
なりすますこともできる可能性が極めて高い。

俺は決意した。
テストパイロットになりすまして、
研究施設の戦闘ロボの設計の現場に潜入する。
研究施設の主だった者達を
宇宙催眠にかけることで、俺は
この研究施設のトップの地位に就く。

俺が望むレールと世界を俺の手で作り上げてやる。

-(4)俺は何をしようが獅子身中の虫なのか!?(前編)へ続く-

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