『吼えろペン』について その5

10月27日

(7)炎尾 燃の意外な反応

ある日、炎尾 燃は、書店で自分の描いた漫画を読んでいた。

だが、読んでいく内に、あることに気づく
この漫画は、いつ描いたのかと
思い出してみようするが、全く思い出せない

まさかと思いつつ、アシスタントに聞いてみると、
やはり、この漫画は、自分が描いた漫画ではなかった。

炎尾 燃と書いて、「ホノオ モユ」と読む
マンガ家が描いたものだったのだ。

作風といい、作者名といい、酷似している。

アシスタントの中には、
これは炎尾 燃の名前を騙って
炎尾 燃の作風で描いている

こんな偽者を、許しておいていいのかと言う者もいた。

炎尾 燃も気にはなったが、

しばらくは、だまってみていることにした。

所詮は、偽者だ。
いくら本人でさえも、
ほとんど区別がつかないレベルで描くことができても、
本物の炎尾 燃ではない。

すぐに、化けの皮がはがれるだろうと思っていたからだ。

だが、この偽者の連載は続く
しかも、その内容も、炎尾 燃自身が、面白いと思えた。

あらためてみると、
自分の絵に酷似しているが、自分の絵よりも丁寧でキレイだった。

ただ、自分が過去に描いた漫画のシチュエーションやセリフを
そのまま使うことを、どうかと思ってはいたが

世間では、この偽者のことを、
「実は、炎尾 燃の名前を受け継いだ漫画家だ」と
噂するようになった。

炎尾 燃は、そんな噂のことを、
気にしないでおこうと思っていたが、

そんな噂があるということは、
「炎尾 燃」として、本物よりも、
その偽者が認知されはじめている。
しかも、偽者の作品が、面白いことは確かだ。

いくら、気にしないでおこうと思っても、
そのことが、全く気にならないわけがない。

そのことで(自覚はなかったのだろうが)
自分の仕事における集中力が、かき乱された

いくら集中しようと思っても、
ネームができなくなったのである。

スケジュール的にネームを作成しないといけないという思いも
あったからなのか

気分転換をしてみても、全く効果がなく、
ネームを作ることができずにいた。

そこで、担当の編集に、原稿の期限について、
相談しようと電話する。

だが、担当の編集より、既に原稿が届いて入稿も済んだという。

炎尾 燃は、唖然とする。

だが、すぐに、偽者のことを思い出した。
早速、その原稿をFAXで送ってもらい確認する。

間違いなかった。
確かに、あの偽者が描いた原稿だったのだ。

勝手に自分の連載の続きを書かれるという漫画家にとって、
とても失礼なことをされたことよりも、
その原稿が面白いことが、あまりにもショックだった。

アシスタントの調査により、偽者の正体が
次第にわかってきた。

Character_58g.jpg
〔↑炎尾 燃のアシスタント達(※1)


(※1)炎尾 燃の常勤アシスタント達は3人、
冷静な判断力と分析力及びツッコミで、
炎尾 燃の「右腕」を務めて、漫画全体の仕上げを
担当するヤス(イラスト左)

特撮番組に、あまりにも影響を受けすぎているが、
必要資料の選別に能力を発揮する
背景作画担当の大哲(イラスト真ん中)

ちなみに、炎尾 燃の偽者の正体を調べたのは
このアシスタントである

炎尾 燃以上に熱血漢で、いきすぎのところもあるが、
「漫画を描くこと」に関しては、常に成長する
資料撮影や買い出し等の雑務をこなす
前杉 英雄(イラスト右)


その偽者は、かつて炎尾 燃の大ファンで、
炎尾 燃に憧れ、炎尾 燃の様なマンガ家になろうと
思っていた。

幼き頃より、漫画の描き方については、
全て炎尾 燃の作品から学んだ。

だが、ある日、自分の原稿を出版社の編集にみせると、
「こんな炎尾 燃のパクリじゃ、
自分の雑誌がレベルの低い雑誌と
みられてしまう」と言われた

「パクリがダメなら、本物になってやればいいのだろう」
それが、きっかけで、
炎尾 燃に憧れてマンガ家になろうとした者は、
漫画で炎尾 燃を打倒して、取って代わる者へと
変わったのだった。

勝手に、連載の続きを描かれるなんて、
失礼な真似までされたのだ。

アシスタント達は、偽者を返り討ちにしてやりましょうと
炎尾 燃に、進言する

だが、あまりにもショックが大きくて、
打ちのめされてしまったのだろう。

炎尾 燃は、そんなアシスタント達に対して、

「自分の作品を自分が楽しむには、

自分が描かねばならないが、
今、別の誰かが、自分と、
ほとんど同じものを描いてくれることは
願ってもないこと」などと言い出す始末だった。

どんなマンガ家だろうが、連載を続けていけば、
行き詰まることもある。

それは、偽者も例外ではない。

偽者は、そんな行き詰まりを回避する為に、

過去の炎尾 燃の作品のネタを
そのまま使う方法に出た。

その作品の内容をみた炎尾 燃は思った。

過去のネタの流用は構わないが、その流用は
偽者の作品のラストへのもっていきかたと、ちょっと違う。
作品が惜しいことになっていると

だが、このことが、炎尾 燃の打ちのめされた
マンガ家としての魂を燃え上がらせるきっかけになった。

さらに、他人事とも思えなかった
炎尾 燃は、偽者の連載の方向性をしめしたネームを描いて、
偽者に、そのネームを送った。

偽者は、そのネームをみて、
マンガ家としての炎尾 燃の凄さに、舌を巻きながらも、
直に勝負する決意をする。

偽者は、自分の連載している雑誌で、サイン会の告知をした。

しかも、自分の代表作に、炎尾 燃の作品まで羅列していた。

炎尾 燃は、理解した。
このサイン会の告知こそが、偽者の自分への挑戦状、
サイン会で、どちらが本物の「炎尾 燃」なのか
決着をつけるつもりなのだと

サイン会自体が、偽者の出版社側が企画したものだから、

自分には、圧倒的に不利な状況での戦いになるのだろう。

それでも、炎尾 燃は、その挑戦を受けた。

サイン会に姿を現した炎尾 燃

戦いの内容は、集まったファンの人間達に、
2人のマンガ家のキャラクターで、

好きなキャラクターのサインを注文してもらい、できた2枚の内、
本物だと思うものを持って帰ってもらう

持って帰ってもらった数が多い方が、
本物の「炎尾 燃」として君臨するといったものだ。

案の定、圧倒的に不利な状況だった
炎尾 燃よりも偽者のサインを持って帰る者が多い

だが、炎尾 燃は、堂々としていた。
偽者の漫画のキャラクターのサインを注文されても、

偽者のキャラクターを、きちんと描いた。

その様子が偽者の心を大きく揺さぶった。

その様子に、偽者の心に悦びを生じさせた。

大いに憧れたマンガ家が、
わざわざ練習までしてくれて

自分のキャラを描いてくれたという悦びが

その悦びの前には、
ファンの人間たちが、
自分の描いたキャラクターを選んでくれたことさえも、
やりきれない感じを覚えずにはいられなかった。

その悦びが、次第に、偽者を、
敵対するマンガ家から炎尾 燃のファンの一人に戻していく。

やがて、偽者は、
炎尾 燃が、キャラクターのサインを描いている様子を
ファンとして、みていて、

ファンとして、そのサインが欲しいと思った。

その様に思った時、偽者は、自分から敗北を認めた。

圧倒的な不利な状況下で、炎尾 燃は勝利したのだった。

さて、
自分と、ほとんど、同じペンネームで、

ほとんど同じ感じで描いて、

連載して、
その内容も本物が面白いと
思ってしまう

あげくの果てには、自分の連載の続きを勝手に描いて、
出版社に送りつける様な偽者が現れる。

これは、マンガ家にとっては、
営業妨害につながるぐらいの脅威だと思う。

普通ならば、「許可なく、こんなパクリで
営業妨害みたいな真似しやがって」と

憤慨するところだが、
意外にも、炎尾 燃は憤慨しなかった。

(本人がスケジュール的に、追いつめられて、
とても大変だったことも、全く関係してなくはないが)

意外にも、偽者の絵について、パクリなどとは
思っていなかった。

それどころか、自分にはない
偽者の絵の良さは認めていた。

偽者の連載が、面白いことも認めていた。

偽者が、連載に行き詰まりをみせて、
過去の炎尾 燃の作品のネタを、
そのまま流用したことに対して、

「所詮、偽者だな」といった様なことは、思わず、

また、マンガ家にとって、
とても失礼なことをされたにも関わらず

意外にも、他人事とは思えないから、

わざわざ、偽者に、連載の方向性を示したネームを送った。

なぜ、営業妨害の様な真似をする偽者に、そこまでするのか

具体的な理由は、よくわからないので、推測するしかないが、

炎尾 燃は、偽者の絵や偽物が自分の過去の作品のネタを
そのまま流用する様子に、アシスタント達が調べる前から
(自覚はなかったと思うが)
何となく感じ取っていたのかもしれない

この偽者が、「漫画を描く」ということを、
細部にいたるまで、
とことん、自分の漫画から学んでくれたことに

Character_58h.jpg
(↑ニセ炎尾 燃)

この偽者(※2)のことが、
自分の弟子や後輩の様に
(自覚はないが)思えてしかたがなかったのでは
ないのだろうか

(※2)このニセ炎尾 燃の正体は萌(もゆ)という女性である。
自分から敗北を認めた後、自分の連載を抱えながらも、
償いとマンガ家としての炎尾 燃に、より近づきたいという思いで、
炎尾 燃のプロダクションの非常勤のアシスタントとして働く

その後、炎尾 燃のことを先生(アニキ)と呼んで、
アシスタントとして、マンガ家として、ファンとして、
炎尾 燃を助けることになる。


だからこそ、サイン会の戦いの際は、
(自覚はないが)師匠として、先輩として、
不利な状況でも逃げずに、

本物の迫力でもって、
弟子や後輩の様に思えた偽者の暴走を
諌めようと思ったのではないのだろうか

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