小説版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を読みました その11

6月1日

(11)シャアがもつ人間不信

自分が、一流のニュータイプである証を得て、
地球寒冷化作戦を行うことができる為に、

アムロに、悲愴とも言える様な戦いを挑むシャア

そんな戦いを挑む根本的な理由は、
自分の尊厳の為なのだろうが、

シャアがもつ人間不信も、
起因しているのではないかとも思われる。

(かつて、ザビ家へ復讐に生きていたこともあって、
多少は仕方がない部分もあると思うけど)

ララァに、「私はお前の才能を愛しているだけだ」と
言っていた様に、

他者の才能を、自分の野望の道具として、
評価して、愛でることはあっても、
その他者個人は、信じていない。
いや、信じようとしないと言うべきか。
ついでに言えば、その他者個人は認めようとしない。

クェスの様に、
他者の才能を自分の野望の道具として
利用する為に、その他者にとって
都合のいい顔をみせることはあっても、

当然ともいうべきか、
その他者個人は、愛してもいない。

さらに言えば、シャアは、
その時の都合で
人を支持する様な人々は、都合がかわれば、
その人間からあっさりと離れるだろうといった
意味合いのことを考えていたらしい。

そんなシャアだから、
自分を支持してくれる者達すら、信じようとしない
愛してもいない。


一年戦争、グリプス戦役、第二次ネオ・ジオン戦争、
そんなシャアの人間不信は、一貫して変わらない、

もっとも、ギレンやシロッコも、
おせじにも他者個人を信じていたとは言えないけど、
彼等は、自分自身は、
少なくとも自分の自身の考えと能力を
信じて疑わなかったと思う。

だが、シャアがもつ人間不信の対象は、

一年戦争末期に、ララァが死んでから、
その人間不信に、拍車が、かかり、
他者だけではない、自分自身も、その対象に
含まれる様になったと思う。

グラーブに、傲慢や過信を戒めて、
自分を過信するなと言った意味合いのことを、
シャアは言う。

しかし、シャアの場合、
自分の能力に関しては、過信はしてはいないが、
全然信じてもいない、

自分の能力に、
必要最低限の自信すら持っていないのかもしれない。


例えば、
クェスのファンネルのテストの際、

シャアは、偶然にも自分がみつけだした
クェスのニュータイプ能力の高さに、
感嘆をもらしていた。

しかし、
『あの娘と、同じにしてしまうのではないか?』という
思いも、あった。

また、メスタに、クェスのニュータイプ能力を
急ぎ戦力としての活用を望むなら、
パイロットとして訓練させるより、
実戦投入したほうが早いと言われた時は、

シャアは、思わず渋い顔をしてしまった。

単純に、クェスが、ララァと同じく戦いの中で、
命を落とすことになるのを心配したのではなく、

自分の野望の有能な道具として、認めたとしても、

クェスが、シャアに惹かれていたとしても、

ララァと同じく、一流のニュータイプであるアムロに、
ニュータイプとして惹かれてしまうことに、
なってしまうのではないかと恐れていたのかもしれない。
(つまり、過去に味わった苦すぎる思いを、もう一度
味わうのを恐れていたのかもしれない)

だが、シャアは、クェスを実戦投入することにした。

ニュータイプの判定や扱いは、自分の仕事ではなく、

ニュータイプ研究所の責任者でもある
メスタの仕事だからという理由である。

優秀な部下の判断を信頼する総帥の立派な姿にもみえる。

しかし、自分自身を信じることができないから、

自分で、過去の苦い経験に、再びつながるかもしれない
決断などできないので、

優秀な能力をもつ部下に、
上手い逃げ口上を、述べて、
その決断に対する責任を背負ってもらっている姿にもみえる。

また、偶然にも、ロンデニオンでアムロと再会した際、

小説版でも、劇場版でも、シャアはアムロに言う。

「今すぐ、愚民共に叡智を授けてみせろ」と

地球にいる人類を粛清する以外、

地球の汚染を止める方法があるなら

その地球いる人類達に、叡智を授けてみせろ、
もっとも授けろといっても、
お前みたいなパイロットしかしていない男に、
授けることなんて、できないだろうと
アムロに言っている様に、とることができれば、

総帥だの英雄だのと称えられても、
実際は、全然たいしたことのない男である自分が、
考えても、地球にいる人類を粛清する以外に思いつかない。

もし、それ以外に地球の汚染を止める方法があるなら、
一流のニュータイプであるアムロから

地球にいる人類のみならず、
愚民の一人である自分にも叡智を授けてくれと
アムロに、訴えている様にも、とることができる。

シャアは、自分自身を信じていないから、
地球寒冷化作戦は、悪行だが、地球の為には、
絶対に正しいなどとは、信じきっていない。

アナデウアーをはじめとする
地球連邦政府の高官達との交渉後、

まるで、自嘲するかの様に、シャアは、
アコギなことをやっていると思う。

全く、たいしたことのない男が、
くだらない連中相手に、騙し討ちの為に、
賄賂すら、おくって交渉していることを
自嘲している様にもと思える。

自分自身と自分の考えに、自信を持っている
ギレンやシロッコが、地球寒冷化作戦を行う場合、

クェスを実戦に投入することを、何の躊躇もなく、
メスタに命令するだろう

アムロに対して、
「今すぐ、愚民共に叡智を授けてみせろ」などと
決して言わないだろう。

地球連邦政府の高官達との交渉後、
自分は、アコギなことをやっているとは
決して言わないだろう。

画像

〔↑サザビーの脱出ポッド(※1)

(※1)小説では、シャアはサザビーではなく、ナイチンゲールで
戦っている。 ナイチンゲールも、サザビーと同じく、
頭部にコクピットがある。 小説によると、サザビー同様、

機体が動かせないほどのダメージをうけると、
ヘッド・フロー・システムが稼動して、コクピット・カプセルが、
離脱する仕組みであるらしい


シャアは、自分自身を信じていない。
仮に、周囲がシャアは、一流のニュータイプではなくても、
地球圏を導いていける度量、家柄、リーダーシップがある
だから、地球寒冷化作戦を遂行できる資格がある人間だと、
本心から言ってくれたとしても、

他人を信じようとしないシャアの自分自身への不信を
払拭してくれはしないだろうと思う。

そんな人間が、自分自身への不信を払拭するには、
確実且つ具体的な証を自分の手でつかみとる、

メスタに、パイロットではなく、
指揮官として行動すること(※2)を強く望まれても、

(※2)シャアにパイロットではなく、
指揮官として行動することを望んでいるのは、メスタだけではない、
シャアの政治顧問であるカイザスも望んでいた。

実際に、カイザスは、そのことをシャアに、
何度も言ったのかもしれないが、

シャアに、その度に、
適当にはぐらかされていたのだろう

一度、演説後のシャアに、
「今、(モビルスーツから)降りると、
約束していただけませんか」と
強く望むこともあった。

メスタやカイザスが、強く望むのも無理はないと思う。

スペースノイドの一般市民達からすれば、
英雄が、パイロットとして戦いの最前線で、
自分達の為に、戦ってくれれば、
その英雄を確実に信頼することができて、
支持することができると思う。

だが、メスタやカイザスの様に、ネオ・ジオン軍の人間からすれば、
組織の最高指揮官であり、ネオ・ジオン軍の象徴とも言うべき
(代わりがいない)英雄たるジオンの子が、戦死の危険性が
最も高い様な最前線に、でてほしくないのだと思う。

スペースノイドの信頼や支持とかは関係ない
もし、シャアが最前線にでて、戦死してしまえば、

地球寒冷化作戦が遂行できないどころではない

ネオ・ジオン軍そのものが、分解してしまうと
思っていたのかもしれない


ベルトーチカがアムロに言っていた様に、
傍からみれば、シャアにとって何のメリットもない、

アムロに互角の戦いの条件で挑んで勝利する以外に、
自分自身への不信も払拭する方法はなかったのだと思われる。

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